medicine 華岡青洲から杉田玄白一門に


 江戸時代の外科医、華岡青洲が初めての全身麻酔手術に成功したのはちょうど200年前の1804(文化元)年10月13日。青洲の麻酔術は「門外不出」で普及しなかったとされてきたが、解体新書で有名な杉田玄白の一門に伝えられ、江戸でも乳がん手術が行われていたことを示す新資料を、松木明知・弘前大名誉教授(麻酔科)が東京都内の古書店で発見した。

 新資料「療乳記」は漢文6ページの小冊子。玄白の息子、立卿(りゅうけい)の乳がん手術記録をその弟子が印刷して関係者に配ったものだ。

 それによると、立卿の手術は青洲の手術から9年後の文化10年9月、江戸の玄白宅で行われた。「麻睡之剤」を用い、重さ数十グラムのがんを摘出、傷を洗い、香油を塗って縫合した。患者は6時間で意識が戻り、1カ月で回復した。青洲の弟子の宮河順達が玄白門下に入って数人に手術し、立卿が実際に見学したこと、青洲への感謝も書かれている。

 青洲は弟子に麻酔術の秘密を守らせた。手術内容の記録は数件見つかっているだけで、手術は広がらなかったと考えられていた。「数え80歳」(文化9年)の玄白が30歳近く年下の青洲に出した手紙が現存し、「病人が手術の痛みに耐えられない。私は高齢なので息子たちに治療させたく、彼らが質問の手紙を出すのを許してほしい。宮河からも手紙を差し上げた」との記述があったが、玄白が単純に青洲を賞賛した手紙と見られていた。

 松木氏は「医学史の空白が埋まった。新資料と合わせれば、青洲の許可を得て立卿が順達から麻酔術を学んだと考えられる。順達が江戸で手術をしたことも初めて分かったが、杉田派が加われば、かなり普及していただろう。青洲が安易な伝授を戒めたのはケチだったからではなく、患者の危険を避けるためだったと思う」という。

 日本麻酔学会は、青洲の麻酔手術が世界の先駆けだったとして、10月13日を「麻酔の日」としている。

(10/13 17:32)

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