初代ローマ皇帝の別荘?宗教施設? イタリア南部の遺跡

発掘で見つかったディオニュソス像


 イタリアのベズビオ火山ふもとにある古代ローマ時代の遺跡で、東大を中心とする総合学術調査チームによる発掘が進む。「ローマ皇帝の別荘」説が強かったが、新たに発掘された部分から、宗教的な目的を持つ建築である可能性も出てきた。予想より規模が大きく、美しい装飾品も見つかっている。誰が何の目的で建てたのか。謎を呼ぶ遺跡だ。

 ベズビオ火山北側のソンマ・ベズビアーナ市内の遺跡は、噴火によって5世紀に埋没した可能性が高い。残された文献や1930年代の試掘から、「初代ローマ皇帝アウグストゥス(前63〜後14年)が最期の日々を過ごした別荘」とする説が強く、地元でも「アウグストゥス邸」と呼ばれてきた。発掘作業は02年夏に始まった。

 今年8月下旬からの作業で、三角破風のある入り口が出土。人間の生殖や大地の豊かさを象徴するとされる「神秘の籠」から、肥沃な土地を象徴するヘビがはい出る意匠や、船の舵とイルカが破風に漆喰で浮き彫りにされている。

 先月末には、昨年頭部などが見つかったギリシャ神話の酒神ディオニュソスの胸部が出土した。通常は酒神の足元にいるヒョウを胸に抱えた珍しいポーズで、様式的特徴から紀元1世紀前半に作られたとみられる。大理石の精巧な作品で、ナポリ西のバイアにあった皇室直轄の彫刻工房の作品である可能性が極めて高いという。

 また、建物の壁の外には、ローマの街道や街路の舗装と同じ玄武岩の石畳が見つかった。鉛でできた太い水道管も引かれていることがわかった。

 調査チーム代表の青柳正規・東大教授(古代ローマ史)によると「三角破風の奥に、小神殿のような宗教的な建物があるのではないか。皇帝の別荘かどうかはまだわからないが、公共的な宗教建築である可能性も出てきた」という。

 地元の工房では修復作業も始まっている。昨年発掘された大理石の女性像の化学分析も行われ、表面に残る赤紫色はムラサキ貝からの色素らしいことがわかった。ムラサキ貝は皇帝や元老院議員が着るトーガなどの染料で、彫刻の彩色に使われたと確認されたのは「世界で初めて」(青柳教授)という。 (10/10 16:23)