medicine ウイルス変異で患者増加


 「プール熱」という感染症に異変が起きている。ウイルスで引き起こされる結膜炎と高熱を伴う病気で、夏場のプールを介して感染が広がるケースが多かった。ところがプールに入る機会が少ないはずの昨秋以来、例年の2〜3倍もの患者が確認されている。原因はウイルスの変異で、寒くても強くなったことなどが考えられるが、正確な理由は不明のまま。専門家は幼児が多くかかるだけに、夏本番を前に注意を呼びかけている。

 「プール熱」の正式名は咽頭(いんとう)結膜熱。アデノウイルスの一種が目や口から体に入ることで起こる。1週間ほどの潜伏期間を経て、39度前後の高熱や目の充血、のどの炎症などが3〜5日ほど続く。ウイルスの種類によっては、脳炎、肝炎など深刻な症状になることもある。5歳以下の子どもが多く、幼稚園などでの集団生活による感染も多い。

 ウイルスを含んだ便や唾液(だえき)がプールの水を介して感染することから「プール熱」と呼ばれる。他人のタオルを使って感染するだけでなく、子どもがじゃれあって接触することや唾液でも感染する。

 国立感染症研究所(東京都新宿区)がまとめている全国3000カ所の医療機関からの報告によると、昨年7月から8月にかけて、1医療機関当たりの報告数が0.6〜0.77人で、過去10年では最高を記録した。

 例年だと7〜8月ごろにピークを迎え、冬にかけて減っていく。ところが昨年の場合、7月に過去最高を記録したあと、10月から11月に定点当たり0.1人台に減ったものの、11月〜今年1月にかけては逆に0.2人以上に増えた。03年12月末の1週間では約0.4人にまで増え、前年の約3倍に達した。さらに、今年に入っても昨年を上回る勢いで、今年5月末の週では、昨年の2倍近く発症者が出ている。

 なぜ冬に増えたのか。同研究所感染症情報センター第三室の多屋馨子(たや・けいこ)室長は推測として(1)ウイルスが変異し、寒さに強くなった(2)医療機関での検査精度が上がり、発症の確認が増えた(3)温水プールで冬場に泳ぐ機会が増えた――などを挙げるが、「正確な原因は分かっていない」という。

 プール熱には解熱剤や目薬をさすぐらいで「受診後3〜4日、安静にするしかない」という。

 後遺症はないが、予防法として、プール前後のシャワーや洗眼の徹底▽タオル共有の禁止▽食前や排便後の手洗い、などを挙げる。要注意なのは症状が治まっても、1カ月ほどは便にウイルスが残る点だ。専門家は、症状が治まった後にプールに入る時はシャワーをよく浴びるなど注意が必要だと指摘している。