売れ行き情報、即活用

 記録的ヒットの大きな要因のひとつに、販売方法の改善がある。近年やっと書籍販売の世界でも、どの店で、どんな作品が、いつ何冊売れたかのPOS(販売時点情報管理)データの本格活用が始まった。

 POSは、90年代初めから各店の在庫管理のために普及した。そのデータに出版社が目をつけ、販売戦略に利用する動きが出てきた。3年ほど前にはインターネットによって書店系列の枠を超え、リアルタイムのベストセラー情報として利用できるようになった。

 国内最大手の紀伊国屋書店の「パブライン」(主要57店舗)、文教堂の「ビッグネット」(236店舗)では、各店の売り上げ実数が翌日ネットで見られる。取次大手の日本出版販売も、POSの売り上げ情報をオンラインで約570の書店に提供している。

 「売れている」という情報は瞬時に、書店、出版社などをかけめぐる。

 「13歳のハローワーク」を出版する幻冬舎の場合、ある地域で売れているというデータを見つければ、すぐに地元メディアに広告を出し、販売促進に動く。見城徹社長は「小さな出版社の機動力をフルに生かし、売れる芽を見逃さないようにしている」と話す。

 さらに売れ出せば、その情報をもとに全国の書店やマスコミに働きかける。売れているという話題を、メディアを巻き込んでキャッチボール方式でふくらませていく。

 またPOSによって、売れている本の品切れを防ぎやすくなった。これまでは売れ残りを恐れて出版社が増刷を渋り、品切れになってしまうことが多かった。それが常に店頭に話題の本が並んでいるので、ブームの勢いをそぐことがなくなった。

 戦後のベストセラーの発行部数を見ると、81年に刊行された「窓ぎわのトットちゃん」を除き、POSデータを販売戦略に生かすようになった90年代末以降の作品が上位を占めている。

 日販の吉川英作・営業推進室長は「POS情報を販売に活用し、効率的な配本をしている。古いしきたりを超え、他の業界で常識だったことにやっと手がつきだした」と話す。

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