惨事の裏、残る「疑問」 

 いったい犠牲になったのは何人だったのか、最初の大きな爆音は誰によるものだったのか、そもそも人質は何人だったのか。大惨事となったロシア南部・北オセチア共和国の学校占拠事件には、いくつもの疑問がつきまとう。これまでにわかった事実から、疑問点を整理すると――。

  • 武力による解決、計画せず

 結果として数百人の命を奪うことになったロシア軍特殊部隊の突入は計画的だったのか、突発的なものだったのか。

 ロシアのプーチン大統領は4日、「強行突入は計画していなかった」と語った。北オセチア共和国のレフ・ズガエフ大統領府情報部長も「交渉や合意の可能性があるうちは、武力による解決はあり得ない」としていた。

 当局側は、爆発に続いて武装勢力が人質に発砲したため、突入したとの立場だ。爆発については、体育館に仕掛けられた爆弾が爆発したとの証言もある。だが、人質と重装備の武装勢力がいたことを考えれば、突入による被害の大きさは容易に想像できたはずだ。

 突入から約1時間で「ほぼ完全に制圧した」との発表があった。だが、実際の制圧はその9時間後とされる。当局も混乱していたことだけは確かなようだ。

  • 人質数のズレは情報操作?

 北オセチアの行政当局は当初、人質の人数を120人から150人としていた。その後、当局が300人から400人と修正をしたが、2日に乳児を抱えた母親ら26人が解放され、人質は1000人から1500人との証言が報じられた。

 2日に解放されたベスラン第1学校の教師リタ・ガズディーナさん(40)は、小学生の子ども2人と末娘(3)を連れ、始業式に出席していた。

 朝日新聞の電話取材に対しガズディーナさんは「人質は1500人はいた」と語る。事件当時、体育館で始業式が行われ、全校児童・生徒約900人が出席。ほとんどの子の親や祖父母が来ていたといい、その多くが人質になった。

 学校内の実情とは大きくかけ離れた情報が流され続けたのは、テロが続くロシアで、当局が意図した情報操作によるものだったのか、混乱の結果だったのか。議論を呼ぶことになりそうだ。

  • 「警備の薄さ」で学校狙う?

 3日に脱出したザレーマ・ズーツェワさん(15)によると、体育館内の両端にあるバスケットリングをロープで結び、そのロープに10個前後の爆弾がつるされていた。体育館の壁に沿っても、10個以上の爆弾が仕掛けられ、武装グループの1人が起爆スイッチのようなものを持っていたという。

 武装勢力は、携帯式のロケット砲なども持ち込み、学校を襲撃するには不釣り合いともいえる武器を持っていた。

 ズーツェワさんは「こんな大量の武器に囲まれ、生きた心地がしなかった。とても、逃げられる状況ではなかった」と振り返った。

 武装勢力は三つの入り口から分かれて学校に侵入した。警備らしい警備はなく、侵入を阻止されることはなかった。

 なぜ武装勢力が学校を狙ったのか、はっきりとした理由は明らかになっていない。しかし、要人や政府機関などの警備を厳しくすればするほど、学校や子供など「より弱い者」がテロリズムの標的にされる可能性が高まるのも事実だ。

朝日新聞(09/05 15:41)



マラルメ論。非常に勉強になります。

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