日米で「標準理論」超える現象


 現在の素粒子物理学の枠組み「標準理論」では説明できない新現象の存在が、日米など二つの国際研究チームの実験でほぼ確実になった。北京で開会中の国際学会で20日までに、両チームがほとんど一致したデータをそれぞれ発表。標準理論を超える新理論の誕生につながると期待される。

 二つの国際チームは、高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)の加速器を使うチームと、スタンフォード線形加速器センター(SLAC、米カリフォルニア州)の加速器を使うチーム。それぞれ、B中間子とその反粒子である反B中間子の崩壊を用い、宇宙誕生のかぎとなる「CP対称性の破れ」と呼ばれる現象を観測してきた。

 その結果、KEKチームは破れの量を示す指標として0.43、SLACチームは0.42という数値を得た。標準理論では0.73程度になるはずで、同理論では説明できない新タイプのCP対称性の破れが存在する確率は、両者の結果を合わせると99.99%。

 昨夏の国際学会でもKEKチームは新現象の存在を99.9%の確率で打ち出し、SLACチームも同様の発表をしていたが、両者の数値のずれがまだ大きく、疑問視する見方もあった。しかし、データが蓄積されて精度が高まり、今回ほぼ一致した。物理学で「確実」と認められる99.999%に大きく近づいた。

 今回の結果は、「超対称性理論」と呼ばれる新理論が存在を仮定する新粒子がかかわっている可能性もある。

 KEKチームの山内正則共同代表(KEK教授)は「日米で、新しい物理法則の存在を強く示唆する一致した結果が得られた。この解明は、今後の物理学の大きな課題だ」と話している。


 〈標準理論〉この世界に存在する4種の力のうち、素粒子物理の「強い力」の理論と、「弱い力」および「電磁気力」の理論との2本柱からなる。だが、これらを統一的に説明できないうえ、「重力」を取り込めていない。こうした問題を克服する究極の包括的な理論を生む手がかりとして、標準理論に矛盾する新現象の発見が待たれる。最近、標準理論が「質量はゼロ」としてきたニュートリノに質量があることも確実になっている。

 〈CP対称性〉電子と陽電子のような粒子と反粒子は、電気の正負などを除けば基本的に同等であること。だが60年代の実験で、粒子と反粒子が同じ物理法則には従わない「破れ」が見つかった。破れは、現在の宇宙は粒子ばかりで反粒子がほとんど無いという事実が起きるのに必要な条件の一つ。73年に小林誠・KEK素粒子原子核研究所長と益川敏英京都産業大教授が「破れ」の理論的説明に成功。この理論は標準理論の一部になった。  (08/20 12:18)


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