実用化に一歩 産総研が最速通信


 産業技術総合研究所茨城県つくば市)は5月12日、第三者による盗聴・解読が原理的に不可能な無敵の暗号、「量子暗号」を使う光ファイバー通信で世界最高速を達成したと発表した。外交・軍事や国際金融など絶対的な機密性が求められる通信への応用を目指し、日本や米国などが国を挙げて激しい競争を繰り広げている分野で、実用に一歩近づく成果だ。

 産総研の吉沢明男・主任研究員らのグループは、光の粒(光子)一つひとつの振動方向に「0」か「1」か(1ビット)の情報を対応させた通信で量子暗号を実現した。

 暗号化した情報本体はインターネットなどで送るが、それに先んじて、暗号化と解読に必要な「鍵」を、この方法で光ファイバー経由で送るのがミソ。途中で盗聴された場合、光子の振動が変化して盗聴されたことが必ず分かる特長があるので、その場合は盗聴を受けずに届くまで鍵を変え続ければよく、盗聴・解読が原理的に不可能な通信ができる。

 この方法は雑音に弱いのが難点だが、吉沢さんらは長さ10.5キロの光ファイバーの受信側にある光子検出器の雑音を抑えて受信にかかる時間を大幅に短縮。通信時間のほとんどを占める鍵の生成で、従来の約100倍、世界最高速の毎秒45キロビットを達成した。

 従来はA4判数枚のワープロ文書(60キロバイト程度)を、100キロほど離れたところに量子暗号で送ろうとすると、暗号化した文書そのものはインターネットで短時間で送れるが、鍵を生成し終えて通信を始めるまで13時間も待つ必要があった。今回の技術を使うと、待ち時間は8分ほどに短縮される。

 実用化には、さらに高速化を進めるとともに、光信号の減衰で100キロ程度が限界になっている通信距離を伸ばすことが課題だ。

 暗号は、鍵が第三者に見破られにくいものほど安全だ。現在普及している暗号は、鍵を探ろうとしても計算に膨大な時間がかかるように工夫され、解読は困難とされている。しかし将来、計算機の高速化やソフトウエアの工夫が進めば、絶対に安全とはいえない。

 原理的に盗聴不可能な量子暗号の実用化は、国家安全保障の根幹にもかかわる技術として、日米などが研究でしのぎを削っている。産総研経済産業省所管の独立行政法人。量子暗号はNECや三菱電機なども研究している。


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