2万匹“退治”計画…生態系壊す

 オーストラリア南部のカンガルー島でコアラが大繁殖し、「生態系を守るために銃で2万匹を駆除すべきだ」との声が高まっている。

 動物愛護団体はもちろん反対だ。州政府もイメージダウンを恐れている。だが、地元観光業界から、「このままでは取り返しがつかないことになる」と駆除容認論が出るほど、事態は深刻だ。

 島南西部のハンソン・ベイ保護区は、コアラ観察の名所だ。コアラの好むユーカリの木を植樹してあり、観光客は、高い木の枝で眠るコアラをみつけるたび、「おぉ」とため息に似た歓声をあげる。年間の観光客数は、約18万人に上る。

 カンガルー島の面積は4350平方キロ。もともとコアラはいなかった。毛皮目的のコアラ猟で南オーストラリア州のコアラがほぼ絶滅した1920年代、南東部のビクトリア州から持ち込まれた18匹が、島のコアラの先祖だ。

 コアラは“一夫多妻制”。通常、3、4歳以上の雌のコアラは年に1匹の割合で出産するという。天敵がおらず、保護策がとられたカンガルー島で、コアラは大いに繁殖した。最初に駆除話が出たのは96年。州政府の調査チームが、「5000匹のうち4000匹を駆除すべきだ」と提言した。それから8年、今や2万2000―3万2000匹に達したとみられる。

 クインズランド大学のヒュー・ポッシンハム教授は、「2万匹駆除」を主張する1人だ。ライフルによる駆除が「最も人道的だ」と言い切る。

 州政府はこれまで、不妊手術や移住などの対策を取ってきたが、教授は「時間と費用がかかる割には効果が上がらない。不妊手術中に死んだコアラもいる。移住させても、移住先で同じ問題が起きる」と語った。

 なぜ「2万匹」ものコアラの駆除が必要なのか。

 島で3年半にわたり国立公園保護官として働いた後、環境や自然をテーマにした旅行会社を経営するクレイグ・ウイッカムさん(38)が、島北東部にあるユーカリの原野を案内してくれた。

 葉のないユーカリの木が目立ち、樹齢200年の大木が立ち枯れていた。ウイッカムさんは「鳥の生態や植生に悪影響が出ている。また、このままでは、コアラが食べられるユーカリは、なくなる。それが原因でコアラが激減したら、『なぜ早く手を打たなかったか』と世界中から非難を浴びる」と駆除の必要性を説く。

 1本のユーカリに3匹のコアラがしがみついていた。葉は3割ほどしかない。「いかに過剰か、この木を見るとわかるでしょう」とウイッカムさんは語った。

 デンマーク人観光客マーティン・シュミットシュトロフさん(40)は、2万匹駆除案について、「なんて恐ろしい。こんなにかわいくて、誰も傷つけないコアラをなぜ殺さなければならないのか」と言う。イギリス人旅行者のイアン・ヒルさん(28)は、移住を主張した。

 内外の反発を恐れるジョン・ヒル南オーストラリア州環境相サイドは、「不妊手術をより効果的に行う方法を調査中だ」(広報担当者)としている。(読売新聞)


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