若き太宰の短編もう1編、文芸誌掲載へ


 作家太宰治(1909〜48)が旧制弘前高校在学中に編集に携わった同校の「校友会雑誌」に別名で掲載された短編小説が、太宰本人の作品である可能性が極めて高いことが、専門家の検証によって明らかになったとして、7日発売の文芸誌「新潮」7月号に全文が掲載される。

 太宰の新たな作品としては昨年、22年ぶりに“発掘”された短編と同じく「比賀志英郎」の筆名で書かれており、同名でもう一編書いたものらしい。

 発見された短編は「校友会雑誌」29年2月号に載った「哀れに笑ふ」。高慢な下宿人に実家を牛耳られ、母親がもてあそばれる無残さを描く。

 太宰研究で知られる相馬正一・岐阜女子大名誉教授が検証したところ、(1)同時期の太宰の習作と同じ仮名遣いの誤用がある(2)グロテスクな描写が同時期の作品と重なる(3)主人公の経歴、身近な男女の関係を邪推する心、帰省中に女性を横取りされる設定など、多くの要素がそれぞれ同時期の作品にもみられる――などの点が明らかになった。

 相馬氏は「自信過剰の青年が転落するテーマや作中に作者が顔を出す手法も太宰特有のもの」と見る。当時、太宰は主宰する同人誌が廃刊となり発表の場を失ったため、編集していた「校友会雑誌」に創作を載せたとみている。「太宰は校友会雑誌でプロレタリア文学に触れ、従来の戯作(げさく)調ナンセンス文学から脱皮する契機となった作品と位置づけられる」という。

「新潮」には相馬氏による検証も掲載される。

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